競馬って、稼ごうとすると稼げない。
もちろん、馬券を買う以上、お金を増やしたいという気持ちはあるだろう。せっかく予想するのだから、的中させたい。できれば大きな配当を手にしたい。
それは自然な感情だと思う。
しかし、競馬をしていると、こんなことを感じる瞬間がある。
お金を欲しがれば欲しがるほど、お金が逃げていくのではないか。
今回は、競馬と人間の欲望について考えてみたい。実は、このテーマにはギャンブル行動を研究した学術論文にも関係する話がある。
競馬で負けると、なぜ取り返したくなるのか?
日曜日、時間をかけて予想したメインレースがハズレた。
本命馬の選択も悪くなかったと思う。展開もある程度読めていた。それなのに、結果は思いどおりにならなかった。
ここで素直に終われればいいのだが、頭の中では別の考えが浮かんでくる。
「次のレースで取り返そう」
「今日はまだ負けている。もう一回勝負だ」
「この馬なら、さっきの負けを取り戻せるかもしれない」
こうして、最初は買うつもりのなかったレースに手を出してしまう。
そして、また負ける。
気がつけば、馬の能力や展開を考えるよりも、失ったお金を取り返すことばかり考えている。
このように、負けた後に賭け続けたり、賭け金やリスクを増やしたりして損失を取り戻そうとする行動は、心理学やギャンブル研究で「損失追跡(Loss-chasing)」と呼ばれている。
2023年に学術誌『Neuroscience & Biobehavioral Reviews』に掲載されたレビュー研究では、関連する74件の文献が検討された。損失追跡には、同じセッション内で賭け続ける行動だけでなく、後日あらためて損失を取り返そうとする行動など、複数のパターンがあると整理されている。
つまり、負けを取り返したいという心理は、単なる気合いや根性の問題ではない。ギャンブル行動を考えるうえで、研究対象となっている現象なのだ。
お金を追いかけると、競馬の見方が変わる
競馬の面白さは、馬の能力や血統、騎手、展開など、さまざまな要素を考えながらレースを予想することにある。
ところが、お金を増やすことばかり考えていると、その見方が少しずつ変わってくる。
例えば、人気薄の馬を見つけたとする。
過去の成績を調べ、今回の条件なら好走する可能性があると判断した。だから馬券を買う。
これは、自分なりの根拠に基づいた予想だ。
一方で、単に高配当が欲しいからという理由で、根拠の薄い穴馬に大きな金額を賭けてしまう場合もある。
どちらも穴馬を買う行為ではあるが、考え方はまったく違う。
さらに、負けが続いていると、普段なら買わない馬券まで魅力的に見えてしまうことがある。
「これが当たれば一気にプラスになる」
そんな期待が、冷静な判断を押しのけてしまうのだ。
もちろん、高配当を狙うこと自体が悪いわけではない。問題なのは、予想の根拠よりも、儲けたいという気持ちを優先してしまうことだと思う。
馬を見ているつもりが、いつの間にか自分の欲望を見ている。
競馬で怖いのは、予想が外れることだけではない。自分がなぜその馬券を買おうとしているのか、分からなくなってしまうことなのだ。
欲を捨てれば、お金が入ってくるのか?
では、お金に執着しなければ、自然とお金が増えていくのだろうか。
私は、そういう話ではないと思う。
欲を捨てれば必ず勝てる、ということではない。冷静に予想しても外れることはあるし、資金管理を徹底しても、長期的に利益が出る保証はない。
ただ、お金への欲望に振り回されなくなれば、余計な勝負を減らせる可能性はある。
例えば、今日は自信のあるレースがないとする。
それなら、無理に馬券を買わなくてもいい。
ところが、稼ぐことが目的になっていると、何も買わずに一日を終えることが損をしたように感じられるかもしれない。
せっかく競馬を見ているのだから、何か当てたい。少しでもお金を増やしたい。
そんな気持ちから馬券を買い、結果的に損失を増やしてしまうこともある。
競馬を楽しむことと、毎回お金を増やそうとすることは違う。
勝てるかどうか分からないレースを見送る。負けた日は、それ以上お金を使わない。決めた予算を守る。
こうした行動は、地味かもしれない。
しかし、自分の欲望を自覚し、その場で行動を選べることには大きな意味がある。
競馬で大切なのは、勝つことよりも自分を知ること
競馬を続けていると、自分の性格が見えてくる。
負けると熱くなるタイプなのか。的中すると次も勝てると思ってしまうのか。高配当に目がくらむのか。それとも、好きな馬を応援すること自体が楽しいのか。
自分がどんなときに冷静さを失いやすいのかを知っておくことは、競馬との付き合い方を考えるうえで大切だ。
私は、競馬をするなら自分なりのルールを持っておきたいと思う。
- 馬券に使う金額は、購入前に決めておく。
- 負けた分を取り返すために、賭け金を増やさない。
- 自信のないレースは、無理に買わない。
- 生活費や必要な貯蓄には手をつけない。
- 決めた予算を使い切ったら、その日は終了する。
どれも当たり前のことだろう。
しかし、当たり前のことほど、感情が動いているときには難しくなる。
だからこそ、冷静なときにルールを決めておくことが重要なのだと思う。
そして、もうひとつ忘れたくないことがある。
競馬の結果は、自分の思いどおりにはならないということだ。
予想が当たる日もあれば、外れる日もある。だから、負けたからといって必ず取り返さなければならないわけではない。
今日の負けは、今日の負けとして終わらせればいい。
お金を追いかけるのではなく、馬を見つめる
結局のところ、「競馬で稼ごうとすると稼げない」という言葉は、少し極端なのかもしれない。
競馬で利益を出すことを目指すなら、予想の検証や資金管理は大切だ。ただし、どれほど研究しても利益が保証されるわけではない。
だからこそ、お金を増やすことだけに意識を向けるのではなく、競馬そのものを見つめ直してみたい。
なぜ、この馬に魅力を感じるのか。
今回のレースでは、どんな展開になると考えたのか。
自分の予想は、どこが正しく、どこが違っていたのか。
そんなことを考える時間も、競馬の楽しみのひとつではないだろうか。
お金が欲しいという気持ちは、簡単にはなくならない。それでも、その気持ちに自分の判断をすべて委ねる必要はない。
勝ちたい。でも、無理はしない。
当てたい。でも、負けを取り返そうとはしない。
競馬を楽しみながら、自分で決めた範囲を守る。
それが、お金と長く付き合うためのひとつの考え方なのだと思う。
お金を追いかけるのではなく、馬を見つめる。
欲望に振り回されず、自分の頭で考え、自分で決める。
競馬だけでなく、日々のお金との付き合い方にも通じる話なのかもしれない。
